座談会 未来構想

メディカルヴィレッジ那須の将来構想について語る

参加者、写真左より

  • 菅間 博     社会医療法人博愛会 理事長
  • 屋代 隆     那須看護専門学校 学校長
  • 藍原 隆     菅間記念病院 事務長               

(※肩書きは対談当時のものです)

「医の心」で迎えた10周年

藍原(菅間記念病院 事務長):本学を含む<未来>の姿として「メディカルヴィレッジな〜す」構想があります。その構想についてお話しいただく前に、一昨年4月に第二代校長に就任された屋代隆先生に、抱負をお聞かせいただけますか。

屋代:那須看護専門学校の創立関係者、前任の上川雄一郎校長先生はゼロからのスタートで、大変だったろうと想像します。それから10年が経ち、ようやく、かたちが出来てきたように思われます。これから先の10年で、さらに周囲から信頼される学校にしていきたいと考えております。現状の課題はいろいろありますが、私は3つの改革を考えています。まず一つ目は、入り口の入試改革。そして出口の国家試験対策、まん中はもっとも重要な教育内容の充実を考えています。それぞれに課題があり、皆さまのご理解とご協力をいただいて、この改革を進めていきたいという抱負を持っております。

藍原:理事長は、どんな学校でありたいと考えておられますか。

菅間:那須看護専門学校も社会医療法人博愛会の運営で、博愛会の理念の一番目が「博愛と信頼」です。「博愛」の精神を持って、患者さんから「信頼」を受けて看護にあたれる看護師さんを育成することを大切にしたいと思います。この那須の地では看護師さんの数が圧倒的に少ない。献身的に患者さんに寄り添い、看護に当たる看護師を多く育てることを目指したいと考えています。その上で大都市と同様に高度な医療について学び、知識を獲得していけるよう看護師さんを育てられたらと考えています。

屋代:まさに同感です。菅間先生の仰った言葉を別の言葉で言い換えると「サイエンスとアート」です。「サイエンス」は医学や看護学の知識を学ぶこと。高度な医療を学ぶことも大切ですが、それ以前に大切なのが「アート」。「アート」とは我々の世界で「医の倫理」、「医の心」を指します。これをどう学生さんに教えていけばよいのかが最も大切なことだと菅間先生は仰っているわけです。具体的に「医の心」を言えば、一つ目は患者さんの痛み、苦しみに共感する心、二つ目は患者さんに救いの手を差し伸べる心。三つめは尽くす心。この三つを身につけて表現できるようにすることがサイエンスの前にやるべきことだと、私も思います。

コロナ禍とその後の看護教育

藍原:コロナ禍で、オンライン授業が新たな方法として定着しました。その中で、どんなことを心掛けてこられましたか。

屋代:着任して3日で、全てオンライン授業に切り替えました。一刻も早く、そうせざるを得なかったのです。最初の半年間はオンライン授業でしたが、今は対面で授業をしています。しかし、学生といかに直接コミュニケーションをとるか悩んできました。屋代流に言えば、学生と一緒にめしを食べ、時には酒を飲んで、何十年もこのやり方でコミュニケーションをしてきました。しかし、コロナ禍でその手法を全部奪い去られてしまった。今の学生たちを全員マスクした姿でしか知らないんです。辛いですね。

菅間:学生たちが実習する病院も通常でない診療環境でした。病院は当初患者さんの家族をシャットアウトせざるを得なかった。そうすると患者さんと看護師、ドクターという医療従事者だけの関係での医療になり、これがかなり難しい状況をつくりました。家族なしの状況で看護師が患者さんとコミュニケーションをとろうとすると、それまで出来ていたことが出来なくなったのです。医療現場もこの2年間はかなり大変でした。コロナの経験をふまえて、新たにコミュニケーションの取り方も含めた看護指導をしなくてはと考えています。

藍原:大変な時代を乗り切られた後の10周年かと思います。この機会に、在校生と未来の看護学生にメッセージをいただけますか。

屋代:本学は地元の医療を支えていく看護師を育てる学校です。そういう創立の精神にのっとって、地元の学生さんを看護師として育て、送りだすのを目標にしてきました。是非、地元でやりがいのある看護師という職業について、安定した家庭を築いてもらえたら嬉しいですね。そして、看護師として地域医療を支えてもらえたら、こんなにうれしいことはありません。

藍原:博愛会も「地域と共に」を二つ目の理念にしています。私や屋代先生のように田舎で育って、地元に戻って働いている人はそう多くないんですね。何度もいうようですが、看護師の数がこの地では絶対的に足りないのです。安心できる医療を提供するためには、医師だけではなく優秀な看護師が必要です。精一杯学んで、看護師の仕事に誇りをもって、地域医療に貢献して欲しいと考えています。

未来構想は卒業生と共に

藍原:那須看護専門学校を一つの核とする未来の構想、「メディカルヴィレッジな〜す」についてお話しいただけますか。

菅間:アメリカでは医学部や看護学校が田舎にあって、それを中心にして町ができているんですね。看護学校や医学部や病院だけでなく、そこにはリタイヤした人が悠々と生活する場所や設備もあります。アメリカで見たそんな生活スタイルや地域のあり方もモデルにしています。首都圏からも人が移り住んでくれたら、新しいカルチャー社会も生まれます。そうした方々を看護師さんや学生たちがサポートしながら、それがまた学生たちの情操教育にもなるという、楽しいかたちになればと願っています。

屋代:面白く出来上がりつつある「メディカルヴィレッジ」構想です。日本にそのようなものが他にあるでしょうか。ありそうでない。この那須看護専門学校、スポーツジム「NASPA」、老人ホーム「レジデンスナスパ」、クリニック「菅間付属診療所」という非常に面白い組み合わせです。病気を治す病院というだけでなく、健康を維持するという立ち位置にも立てます。那須塩原駅に近く、那須の山々も見え、とにかく環境がいい。健康やスポーツに興味ある地元の人たちを我が校の研究生として受け入れ、自由にコンピューター室、図書館、などを使ってもらうことも考えています。また市民講座や一般教養の講師として、学生に教えていただける人との出会いも期待しています。

菅間:これまで構想を立てても看護学校を立ち上げて運営するだけで精一杯で、10年が過ぎてしまいました。しかし、今やっと機が熟したと感じています。実は10年前に市役所が那須塩原駅前に移転するはずでした。それが遅れていましたが、やっと設計工事が始まりました。市役所が移転してくれば「メディカルヴィレッジな〜す」の周辺の人口も増えるでしょう。人口の密集した首都圏からも多くの方に那須塩原に来てもらいたいですね。地元の方には施設を開放して、たまり場的な交流の場にもしてもらいたい。これからが本番だと思っています。そして何より主役は学生と卒業生です。本校で学んだことを活かして、地元の医療を支え、さらに都会からくる方のお世話もすることで、人間として成長していってほしいと願っています。卒業生の母校がなくなるようなことがないように、民間での看護学校経営の厳しさに直面しながらも、本校の運営と教育の充実を頑張ってやっていかなくてはと考えています。
屋代:地元の学生さんにきてもらって、地域医療を支える貴重な人材を送り出すのが目的ですが、そのためにも本校を魅力ある学校にして、第一志望の学校となるよう目指したいですね。

菅間:「メディカルヴィレッジな〜す」構想を実現し発展させることによって、那須看護専門学校で情操教育的なものと最先端の技術の両方を教えられる、他校にはない独自の看護学教育を目指したいと考えています。
安心できる医療と看護のある所に人々は集まってきます。そうしたメディカルヴィレッジを地元の人たちや卒業生と一緒に作っていけたらという夢を持っています。