座談会 学校設立時の背景

地域医療を担う看護師を育てたい

参加者、写真左より

  • 菅間 博     社会医療法人博愛会 理事長
  • 松山 ゆかり   那須看護専門学校 副校長
  • 阿久津 恵美   菅間記念病院 看護部長
  • 見上 佐織    那須看護専門学校 教務主任・事務長代理
                    

(※肩書きは対談当時のものです)

「設立まで8年をかけた志」

菅間:那須看護専門学校は平成24年4月に開校しましたが、その8年前ほどから構想を始めていました。地域の中心の那須塩原駅前に、地方創生のための学校を作ろうという「那須ナースヴィレッジ構想」を前身にして始まりました。それが現在の「メディカルヴィレッジな~す」の構想につながっています。始めてみると予想以上に大変でした。

見上:前事務長の伊藤和美氏は、本校設立のために関係各所にずいぶん足を運ばれました。

阿久津:当時の看護部長さんたちも、ですね。

菅間:前事務長の伊藤さんとともに、私が博愛会経営に携わった当初の看護部長の佐藤ふじさん、次の齋藤惠子さんの貢献が大きいです。今も非常に感謝しています。当時、看護師1名が受け持つ患者数が7名という看護体制が診療報酬に導入され、地方の看護師数が足りないという現実に追い打ちをかける事態になりました。地元の学生を地元で育てて、地元で看護師として働いてもらわないと、このままではこの地域の医療がなりたたない。当初は那須大学に看護学科の開設を働きかけましたが、それがかなわず、独自で学校を作るほかないと決めたのです。

見上:2006年頃は社会的変化の著しい時代で、看護教育においても、高校の衛生看護科が全国的に閉鎖になり、四年制大学化が進みましたね。

松山:准看護師廃止という圧力の背景もあり、厚労省も看護教育の高等化を推奨していました。

見上:あの時代は、看護師が大病院の最先端の医療現場で働く方向のみを目指した時代でした。

菅間:看護部長だった齋藤惠子さんに「看護師になるのに一番大切なことは何か」と尋ねたら、「技術より、ナイチンゲールの時代と同じように患者さんに寄り添うという基本的なことが大事だと思う」と。それが強く心に響きました。

見上:当初から理事長は、患者に寄り添う地域医療という視点で一貫しておられました。今、全国的にやっとその流れになりましたが。

阿久津:でも、看護師を民間の学校で育てるためには、ものすごくお金がかかりますよね。

松山:一人の看護師を育てるには300〜400万円必要ですから、学生が80~100人いないと無理です。定員40人では経営が成りたたない。

菅間:最初からそれはわかっていたことで、不採算を覚悟で開設しました。

「学校としての信頼を得た10年」

菅間:開校準備が整ったら、学生を集めるために見上先生たちが地域の高校にお願いに回ったりしましたね。一回目の入学生は何人でしたか。

松山:42人です。一回生は社会人が中心でした。他の病院が、正看護師の資格を取りたい助手の人たちを送り出してくれたんです。

菅間:定員割れになった年もあったね。

松山:地域の高校を積極的に回りましたが、もともと18歳人口が少ないのに、高校生は大学を目指す子が多くて、入学者が30数名という定員割れの年もありました。それでも、3回生が卒業する頃になると、先輩後輩のつながりから入学を希望する学生もでてきました。4回生の卒業の年には、国家試験合格率が100%になり、高校からも感謝され期待されてきました。

松山:今では地域の高校から多くの生徒さんが学び、地域の病院に残るようになりました。隣の福島県からも生徒が来るようになりましたね。

菅間:県境には関係なく、福島南部でも同じ地域だと思っています。都会に出てしまわず、地域医療に貢献してくれればありがたいです。

阿久津:看護師として働くイメージは実習の場でしか得られないものだと思います。実際に実習の印象で、実習先に就職する人も結構います。

菅間:当初は実習の受け入れ先を探すのも大変だったようですね。

見上:どこの病院でもよいというわけではなく、実習先に関する要件が厳しくいろいろあるんです。菅間記念病院も含めて看護部と連携して開拓していきましたが、大変でした。

阿久津:当初、菅間記念病院では指導教員育成コースを受けていない人がほとんどでした。その研修に各部署から派遣することから始めました。実習の受け入れ準備は大変でしたが、始まってしまうと職員は協力的で、スムーズにここまで続けてこられたと思っています。教えることに喜びを持つ人も結構いますし、教員を目指したいと言う人も出てきています。コロナ禍のこの2年間は他の病院が実習生を受け入れてくれず、うちで全領域の実習生を受け入れました。

「誇れる看護師さんを育てる学校に」

菅間:この10年を振り返って、どうですか?

見上:今年は、ここに勤めた意味を改めて問われる10年目だと思っています。設立には大変苦労しましたが、やはりこの学校の教育理念は間違いなかったと思っています。

菅間:改めて基本に戻って、いかに本校が地域医療に貢献できる学生を育てていくかですね。

見上:10年前は大学が右肩上がりでしたが、昨年あたりから減少してきています。対して、3年課程は減少するだろうという予想に反して、まったく減らないんですね。これからは大学が淘汰されていくのかなと思います。

松山:卒業生がどんどん経験を積んで、この地域で教員も育てられたらいいなと思います。

菅間:「メディカルヴィレッジな〜す」構想も含めて、他校とは違ういろいろな意味で誇れる看護師さんを育てる学校にしていきたいと思います。これからもよろしくお願いします。